重大な事を告白された時に取るべき態度と反応とは？

師匠、今日は、ちょっと相談があって、来ました。

おー！よく来てくれたんじゃね、見習いちゃん。ああ、最近は、部下に「ちゃん」付けると、セクハラになるんじゃったね。失敬失敬！

いえ、あたくしは、気にしませんので、お好きなように、お呼びください。

それで、今日は、そんな深刻な顔して、どうしたんじゃい？妊娠でもしたのか？ああ、またこれも、セクハラになるんじゃった。失敬失敬！

いえ、妊娠ではありません。患者さんの診察のことで、教えていただきたい事があるのですが。

ああ、最近、担当する患者さんが増えてきたみたいじゃな。よく頑張っているようじゃね。うんうん。

それで、私を信頼してくれる患者さんからは、重大な事を、打ち明けられることも、増えてきました。

そうじゃろうね。それが、医術者冥利につきるじゃろう？うんうん。

はい、大変それはありがたいことなんですが、それを受け止める、自分自身が、不甲斐なくて。

いやいや、誰でも通る道じゃよ。

ただ、同情や憐れみをすればいい、というのは違うような気がするんです。

そりゃそうじゃよ。同情や憐れみも、一歩間違えば、本人の自尊心を傷付けることになるのじゃ。

やっぱりそうですよね？でも、自分のボキャブラリーには、そういう言葉しか、浮かんでこなくて。

自分が、患者さんを、ぞんざいに扱ってないか？それに気づいただけでも、第一関門突破じゃ！

そうでしょうか？考えれば考えるほど、ぎこちない、変な態度になっている気がして、せっかく打ち明けてくれた、患者さんに対して、申し訳ないのです。

考えすぎなんじゃよ。

ええ？考えすぎですか？でも、考えてさしあげるのが、役割ですよね。

それは、その後、たっぷり時間はあるんじゃから、ゆっくり考えていけばいいのじゃよ。

考えるのは後ですか？

そう。打ち明けられた瞬間、とっさに、本能で、つまり情動レベルで、どう感じるか、その反応を、患者さんも感じるのじゃ。

とっさの反応ですか？

それは、なかなか、急にはできないから、実は、心構えがいるのじゃよ。

ええ？とっさの反応をするために、あらかじめ、心構えがいるんですか？なんか、矛盾しているような気がするんですが。

正直言うと、打ち明けられた時に、ええ？本当にそんなことあるの？という、疑問や、否認の気持ちが、最初に出てしまうこともあります。

そうじゃろ、そうじゃろ。人間は、自分が経験していない、未知のことは、本能でそう反応してしまいたくなるもんじゃ。

それが、伝わると、患者さんは、受け入れてもらえなかった、という残念な気持ちになると思うんです。

まあ、その通りじゃな。

では、師匠は、一体どんな反応をしているんですか？

ん？わし？わしはね、そういう時は、上半身を、思い切りのけぞって、両手をあげて、目を見開いて、口をあんぐり開けて、持っていたボールペンを床に落とすんじゃよ。えー！って言いながら。

ええ？そこまで細かく、設定しているんですか？

もちろん、その後、打ち明けてくれた、勇気をたたえて、その勇気に感謝するんじゃよ。よく、今日ここでわしに、それを打ち明けてくれたねえ、と。

まずは、驚くんですね？

そうじゃよ。患者さんにしてみれば、すごく重大な事を、意を決して、打ち明けてくれたんじゃ。無反応だったら、失礼じゃろうが？

確かに、そうですよね。ふーん、それで？で終わったら、悲しくなりますよね。

患者さんが、勇気を出して挑んだ、１つの儀式だと思って、こっちも儀式のように、振る舞うんじゃよ。

儀式ですか？

そうしないと、わしらは、度々そう言う話を聞いているから、だんだん麻痺してくるんじゃ。

確かに、今は良くも悪くも響くけど、そのうち慣れてきて、響かなくなるような気もします。

だから、麻痺する前に、この事を知っておいて、良かったんじゃよ、君は。

もう、これが続くと、どうしていいかわからなくて、麻痺するところでした。

体を診る医者も同じじゃ。毎日毎日、同じ訴えの患者さんを診ていると、その訴えが、大した事のないように、思えてくる。

そうですよね。患者さんからしたら、辛くてたまらないのに、感覚が麻痺している医者に訴えても、通じにくいことはあるかもしれないですね。

だから、少々、オーバーにリアクションするように、心構えしておくんじゃ。それは、大変だ！と言う風に。

それって、半分演技ですよね？逆に見破られて、嫌な思いをさせませんか？

それがな、不思議なもんで、そうしていると、本当に、1人1人の重大な告白が、いつも驚きと敬意を持って、受け止められるようになるんじゃ。実際、本当に、心からそう感じるんじゃよ。そのためには、まずは形から入るんじゃよ。

形からですか？

打ち明けられた話が、本当か、嘘かなんて、どうでもいいんじゃ。それは、すぐには、考えなくていいんじゃよ。

確かに、私たちは、事実確認をするのが、役目ではありませんよね。

そうじゃ。事実がどうであれ、何か苦悩や苦痛を抱えて、診察を受けているのは確かじゃろ？

そうですね。

事実がどうであれ、勇気を出して、重大な事を打ち明けてくれた。それだけで、十分なんじゃ。

なるほど。

患者さんだけじゃないぞ。たとえば、子供が大人に何か、驚きや発見を伝えたい時、助けを求めたい時、大人にとっては、とるに足りないことや、信用できない話と捉えて、取り合おうとしないじゃろ？

そうですね。つい、大人目線で判断してしまいますね。

子供が、大人にSOSを出して、きちんと取り合ってくれる大人は3人に1人と言われているのじゃ。

ええ？たったの？

実際は、もっと少ないかもしれないのう。勇気を出して打ち明けたのに、大人が取り合ってくれなかったら、子供は、もう1人目であきらめるんじゃよ。子供こそ、本能で、反応を察知するもんじゃからな。疑いや、拒絶の心をごまかせないんじゃ。

それだけ、本能情動レベルの、瞬時の反応が大事ってことですね。

そうじゃ。大事なのは、瞬時の反応じゃ。自分の固定観念や、偏見を、一切無にして、心構えするのじゃ。

無にして心構えするのが、至難の技ですね。

だから、最初は、そういう時の反応を、自分でシュミレーションして、決めておけばいい。考えずに、反応できるようにじゃ。

なるほど！

それが、儀式として行われると、そこから復活劇が始まるんじゃ。

復活劇？

驚きと敬意を持って受け止められると、打ち明けた本人も、ああ、これは大したことない事ではなくて、大変なことだったんだ、と自覚するんじゃ。

なるほど。自覚を促せるのですね？

ただ、その後、同情と憐れみだけで、かわいそうにとなでるだけで終われば、復活劇は始まらないのじゃ。

じゃあ、どうすればいいのですか？

これまで耐え抜いてきて、打ち明けてくれた、勇気をたたえることから、復活劇は始まるんじゃよ。

そうですね、そして、その後の復活劇にも、勇気は必要ですよね。

もう、打ち明けたことで、勇気は証明されたんじゃ。そういう大事な儀式なんじゃよ。重大な事を人に打ち明けるということは。

なるほど！

そういう心構えで、診察に当たっていれば、大丈夫じゃろ。参考にしてみてちょ。

大変参考になりました！さすが、魔プロフHです！ありがとうございました！

なーに、わしが教えられるのは、これぐらいのことじゃよ。フォッフォッフォッ。