『このままでいいのか』と月に一度は考えるのに、翌朝には忘れたふりをしている
夜中に浮かぶ問いを、朝には押し込める。その繰り返しが、自分の中に空洞を広げている。外側だけ膨らんだ風船は、いつか破裂する。
夜、布団に入った瞬間に浮かぶ問いがある。『このままでいいのか』と。仕事は回っている。家族も養えている。表向きには何も問題ない。なのに、胸の奥で何かがざわつく。このまま10年経ったら、自分はどうなっているのか。本当にこれでよかったのか。そんなことを、月に一度は考える。
でも、翌朝になると、その問いはどこかに消えている。いや、正確には「消えたふり」をしている。目覚ましが鳴り、顔を洗い、スーツを着て、通勤電車に乗る。そうやって日常が動き出すと、昨夜の問いは「気のせい」になる。忙しさに紛れて、また一ヶ月が過ぎる。そしてまた、ある夜に同じ問いが浮かぶ。
この繰り返しを、あなたはもう何年続けているだろうか。
その問いを無視できるのは、今の生活がそれなりに機能しているからだ。会社では期待に応えている。家では役割を果たしている。世間体も保たれている。外側から見れば、何も問題ない。だから、内側の違和感くらい、無視してもいいと思ってしまう。
でも、本当にそうだろうか。
外の世界での期待に応え続けることと、自分の欲求に応えることは、全く別の話だ。あなたは前者には熱心だが、後者は完全に放置している。上司の期待、妻の期待、親の期待、世間の期待。それには全力で応えようとする。でも、自分が本当に何を望んでいるのか、その声には一切耳を傾けていない。
その状態は、まるで風船のようなものだ。外側だけがパンパンに膨れて、中は空洞。見た目は立派に見えるが、触れば軽い。そしていつか、破裂する。
人は、外からの期待だけで生きていると、次第に中身を失っていく。最初は「やりがい」があったかもしれない。でも、それが「義務」に変わり、やがて「惰性」になる。気づけば、何のためにやっているのかわからなくなる。ただ、止まると不安だから、走り続ける。
その時、自分の中に何が残っているだろうか。
本来、人が成長するというのは、実が熟していくようなものだ。外側が大きくなると同時に、中身も詰まっていく。そして、その実は美味しくなる。誰かに与えられる価値が、増していく。
でも、中身を置き去りにしたまま外側だけ膨らませると、それは空洞になる。見栄えはいいが、中身がない。誰かが期待して手に取っても、そこには何もない。
『このままでいいのか』という問いが浮かぶのは、あなたの中の何かが、まだ諦めていないからだ。本当は気づいている。このままでは、自分が壊れる。このままでは、いつか何もかもが色を失う。だから、その問いが浮かぶ。
でも、その問いに向き合うのは怖い。なぜなら、向き合った瞬間、今の生活を問い直さなければならなくなるから。今やっていることの意味を、疑わなければならなくなるから。そして、もしかしたら、何かを変えなければならなくなるから。
だから、朝には忘れたふりをする。見て見ぬふりをする。その方が楽だから。
でも、見て見ぬふりをするたびに、空洞は広がっていく。
欲求というのは、無視すれば消えるものではない。むしろ、置き去りにされた欲求は、やがて暴走し始める。
最初は、小さな違和感だ。なんとなく満たされない。なんとなく虚しい。それくらいなら、まだ無視できる。でも、それを放置し続けると、ある日突然、爆発する。突然会社を辞めたくなる。突然すべてを投げ出したくなる。あるいは、突然誰かに暴言を吐く。突然泣き出す。そういう形で、抑え込んでいたものが噴き出す。
それは、衝動的に見える。周りからは「急に何があった?」と言われる。でも、本人にとっては、何年も積み重なった結果である。ただ、それを言葉にしてこなかっただけだ。
欲求を無視し続けた人間は、ある日、自分でも制御できない形で欲求に支配される。
『このままでいいのか』という問いは、あなたを脅かすために浮かぶのではない。あなたを守るために浮かぶのだ。今ならまだ、軌道修正できる。今ならまだ、自分の中身を満たし直せる。今ならまだ、壊れる前に、立て直せる。
その問いを、もう無視しないことだ。朝になっても、忘れたふりをしないことだ。怖くても、その問いと一緒にいることだ。
答えはすぐには出ない。それでいい。大事なのは、問いを持ち続けることだ。問いを持ち続けた人間だけが、やがて自分の輪郭を取り戻していく。
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