休日の昼下がり、ソファに座ってスマホを眺めていた。何を見ているわけでもない。ただ、画面を指で滑らせているだけ。そこに息子がやってきて、何気なく言った。「お父さん、最近つまんなそうだね」と。
その一言が、妙に胸に刺さった。別に怒っているわけではない。息子はただ、観察したことをそのまま口にしただけだ。でも、その純粋な指摘が、自分でも気づいていた何かを、言葉にされてしまった気がした。
つまんなそう。確かに、その通りかもしれない。最近、何かにワクワクした記憶がない。仕事は淡々とこなし、休日は疲れを取るだけ。何かを楽しみにしている感覚も、何かに夢中になっている感覚も、ない。ただ、日々が過ぎていくだけ。
息子は、それを見抜いていた。子供というのは、大人が思っている以上に、空気を読む。いや、正確には「空気を読む」というより、もっと本能的に感じ取っている。大人が無理に笑っているのか、本当に楽しんでいるのか。その違いを、言葉にはできなくても、肌で感じ取っている。
だから、どれだけ表面を取り繕っても、子供には通じない。むしろ、無理に元気なふりをすると、余計に不安にさせる。「お父さん、何かおかしいぞ」と。子供は、嘘をつかれることより、嘘をつかれていることに気づくことのほうが、よっぽど不安になる。
そして、もっと厄介なのは、子供は親の姿を「未来の自分」として見ているということだ。お父さんが楽しそうに生きていれば、大人になるのも悪くないと思える。でも、お父さんがつまらなそうに生きていたら、大人になることそのものが、不安になる。
「大人って、こんなふうになるのか」そう思わせてしまったら、それは罪に近い。
では、どうすればいいのか。無理に元気なふりをするべきか。それとも、子供の前でも正直に、疲れた顔をしていていいのか。
実は、どちらも違う。
大人にだって、元気のないときはある。疲れているときもある。つまらないときもある。それ自体は、何も悪くない。問題は、それを「仕方ない」で片付けてしまうことだ。
つまらなそうに生きている自分を、放置している。活気のない自分を、そのまま受け入れている。そして、どこかで諦めている。「もうこんなもんだろう」と。
その諦めが、子供には見える。そして、その諦めこそが、子供を不安にさせる。
もし本当に、生き生きした自分を取り戻したいなら、ひとつだけ試してみてもいいことがある。
子供に戻ってみる。
それは、幼稚になれという意味ではない。無邪気に振る舞えという意味でもない。そうではなく、子供の頃に持っていた「好奇心」を、もう一度拾い直してみるということだ。
子供の頃、何に夢中になっていたか。何を面白いと思っていたか。何に心が動いていたか。それを思い出してみる。そして、今の自分は、それを完全に手放してしまっているのかどうか、確認してみる。
多くの大人は、成長の過程で、好奇心を「無駄なもの」として捨ててきた。役に立たないから。稼げないから。時間がないから。そうやって、少しずつ、自分の中の「ワクワク」を削ぎ落としてきた。
その結果、今のあなたがいる。つまらなそうな顔をして、ソファに座っている大人。
でも、本当はまだ、その好奇心は死んでいない。ただ、長い間使わなかっただけだ。埋もれているだけだ。
だから、掘り起こせばいい。何か小さなことでいい。昔好きだったものに、もう一度触れてみる。新しいことに、試しに手を出してみる。何かを知りたいと思ってみる。何かを作りたいと思ってみる。
その時、少しだけ、目が輝く。それを、子供は見ている。
「お父さん、楽しそうだね」そう言われた時、初めて気づく。自分が取り戻したかったのは、元気ではなく、好奇心だったのだと。
つまらなそうに生きている大人を、子供は責めない。ただ、心配するだけだ。
ならば、心配させないために必要なのは、無理に笑うことではない。もう一度、何かに夢中になってみることだ。
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