2021
02.13

音楽コラムシリーズ1

音楽

1.封印

あれは、まだ20代前半のことだった

大学のオーケストラで
2ndバイオリンのトップを任されていた時だ

ドボルザークの新世界の全体練習中
突然、指揮者から弓先に封筒を被せられた

バロックや古典ばかり弾いてきた私は
弓先を使いがちでひ弱な音を出していたからだ

恥ずかしさと
自由に弾けないもどかしさで
ひどく心がかき乱され混乱を極めた

その瞬間から私の音楽への自由さが奪われ
バイオリンへの情熱も一気に冷めていった

呼応するように楽器も故障し
その後ほとんど弾かなくなってしまった

思い返せば、まだ感情が未分化で
自分に何が起こったか洞察できず
プライドが傷付きいじけてしまったのだ

私の音楽は
あの日の封筒によって封印されたまま
長い時が過ぎていった

2.忘却

仕事や家事や子育てに追われ
約10年間ほとんど楽器を演奏することはなかった

私の人生にもう音楽は必要ない

他にしないといけないことがたくさんある

そうして
自分にとって1番必要だったはずの音楽を
1番遠ざけていった

悲しみよりいじけだった

3.再会

数年前に病気になって
死や障害を意識したときによみがえってきた

やっぱり音楽とともに生きていきたい

音楽のない人生は私の人生ではない

テクニックは伴わなくても
音楽愛好家として
音を追求していくことはできる。

そう決心したら
ありがとう病気!とまで思えた

4.ごまかし

そうして再び音楽を奏でることを決めたが
選んだ楽器はバイオリンではなかった

もう、弾く自信がなかった

きっと、自分で自分の音が許せない

選んだ楽器はピアノだった

5.欲求

ピアノはピアノでやりがいがあった

けれど
いつもどこかにバイオリンの気配を感じていた

楽器が弾いて欲しそうな顔をしてたが
私は気付かないフリを続けた

しかし、数年前から人前で弾くことを
頼まれるようになった

患者さんたちの前で弾いた時
初めて間近でバイオリンの音色を聴く人もいて
みんな真剣にじっと音に集中していた

もう1度弾いてみようかな?

バイオリンへの情熱が少し戻ってきた

今の自分にふさわしい師に出会い、
レッスンを受けれたらいいな

そんな思いが頭をよぎるようになった

6.覚醒

情熱を持って何かを求めると
不思議と目の前に現れるものである

昨年末に
写真を撮ってもらったことをきっかけに

投稿を見てくださった方が
素晴らしい師につなげてくださった

志村寿一先生

実に約20年ぶりにバイオリンのレッスンを受けた

後半、私の音がよみがえった

あの封筒が取れた瞬間だった

そうだ!この感覚だ

初めてバイオリンに触った時
初めて自分で音を出した時

私は一切、力むことなくワクワクして
弾ける悦びにあふれていた

その感覚に似ていた

力みを忘れて、自然体で
全身で音を奏でる悦びを味わう

先生はあの封筒を取ってくださったのだ

それを感じさせてくれる素晴らしいメソッドだった

私の中でバラバラになっていた何かが
もう一度つながった感覚になった

小手先のテクニックは後からでいい

まずは、この音を味わいたかったんだ!

7.再始動

私の頭の中は
バイオリンの音の振動でいっぱいになり
脳がブルブル震えていた

まるで、脳神経細胞の一つ一つが
悦びで揺れているようだった

長い間眠っていた何かが動き始めた

残りの人生をかけて
バイオリンの音をもう一度追求していこう

難しい曲を弾くことではなく
自分の理想とする音を目指していこう

そう思わせてくれる
素晴らしい先生との出会いだった

8.心の解放

結局のところ
表現は心とつながっている

あの日私は、封筒によって心にも蓋をしてしまった

蓋を取るきっかけは
いつどんなときにやってくるかわからない

願えば案外早くやってくるのかもしれない

物理的に蓋をされ窮屈に感じる
このコロナ下の状況でも

せめて
自分の心だけは解放して過ごせたらと思う

乗り越えた先には
きっと今まで以上の悦びが待っているはずだから

p.s.志村寿一先生のメソッドは、歌やスピーチ、他の楽器演奏にも通じるので、たくさんの表現者に広まって欲しいです☆興味のある方は、コメント欄に書籍を紹介しています。